国から勲章を授与されるほどの名工である舟弘さんが作ってくれた大小あわせて11本の刀が届いた。
そしてこの桐箱に収まっている8本は、たくさん練習して技術を磨いた若い衆にプレゼントしていくつもりだ。
「こんなに長くて薄い刀は作った事がない」と3年前から断られていたが、今年の3月に直接プレゼンテーションをする機会をいただいた。
舟弘さんにジッと見られながらの作業は柄にもなく緊張したが「こんなふうに刀を使うのは初めて見た。こりゃあ長いのが必要だな。。」と舟弘さん。「もっと切れる刀があればまだまだ上達できます」そう言うと「よし!最高の刀を作りましょう!」と快諾してくれた。
それから数ヶ月、何度も電話でやりとりをする中で、舟弘さんにとっての職人としての喜びや技術を突き詰める楽しさなど、沢山の言葉をいただいた。
今回、彼が作ってくれた刀はただの道具ではなく、ものづくりのお手本のような物だ。
最高の道具を使うというのは、切れ味やその性能だけでなく、使う者の背筋を正してくれるような、そんな効能があるように思う。
今回、舟弘さんが作ってくれた刀の鋼は青紙をベースに炭素量を調整したものを用い、地金には善光寺で採れた数百年前の和鉄が使われている。
仕上がりが美しいのは言うまでもない。
刃の回転性を高めるために細く薄い造になっているうえに、刃先の維持を考慮して裏スキを深くえぐっているから驚くほど軽く、下手に扱えばすぐに曲がってしまうほど繊細である。
新しい刃物は使い手が自ら仕込む。
まずは刃裏の歪みを金床で研いだり木槌で叩いたりしながら真っ直ぐに仕立てる。そして荒い砥石で刃表を整えたら中砥石で研ぎはじめる。
古い和鉄は柔軟で刃の形が整えやすく、刃裏にはすぐにピシッと刃返りがたつ。そしていくつかの工程を踏んで、仕上げの天然砥石で研ぎ上がるにつれ、自然と刃返りが消えていくのが心地良い。
鋼のポテンシャルを引き出す為の研ぎやすさ。
そんな日々の使い勝手を創り上げるのも舟弘さんの火作りの技だ。
この日のために用意していた黒柿、黒檀、神代桂などの銘木で鞘と柄をじっくり時間をかけて作る。
さあいよいよ木肌に刃を入れてみる。
嘘みたいに切れる。抵抗なく刃が勝手に進んでいく。
そして薄く繊細であるのに刃先はしっかり粘って小さな刃こぼれ一つ無い。
道具としての用の美と作り手の意匠が見事に表現されているまさに理想の刀だ。
この道具に恥じない仕事をしようと思えることが有り難い。
そして、この刀をいつか成長した若い衆に手渡し、こんな気持ちを共にできる日が待ち遠しい。