柿の木が数百年の樹齢を重ね古木になると、稀に芯材に墨で書いたように黒い紋章が入るものがあります。これが黒柿です。
黒柿が出易い地域の柿の木千本の中より1本しか出ないと言われており驚くほど希少です。稀に見つかっても原木は小さく、製材すると柄が消えたり割れや歪みが出て少ない材料しか取れない。また柄が不均一なため柄取り、柄合わせが必要となり、さらに材料は小さくなっていくため使える部位はごく一部です。
一般的な銘木は年輪の濃淡が柄に見えますが、黒柿は年輪の濃淡に加えて独特の杢目(もくめ)が重なります。柿の木の中に含まれる養分が何らかの変化を起こして薄茶ベースの生地に墨で描いた水墨画のような杢目が現れます。これこそが唯一無二の美の所以です。
正倉院にある黒柿で作られた宝物の数々は約1300年前すでに黒柿の工芸品が存在したことを証明しています。黒柿の文化は作り手の伝統として引き継がれたと思われますが、茶道によって活性化され大名、上級武士、豪商の茶人たちに屋敷の銘木材、茶道具として愛好されてきました。